犬が自分の後を付いてきてくれるのはうれしいものです。「そんなにわたしのことが好きなの?」といとおしい気持ちになります。
ですが、いままで寝そべっていたのに、水を飲もうと立ち上がっただけでガバッと起き上がり、「どこ行くの?」とばかりに付いて来る、トイレの中まで入ってくる、お風呂に入っているとドアの前で待っている、出かけようとすると不安そうに吠えるなどとなると、ちょっと心配になります。
同居人の後を付いてくるという行動(後追い行動)それ自体は、どんな犬にも見られます。これは犬が家畜化されて、人間といっしょに暮らす中で獲得していった習性といえるでしょう。その意味では通常の行動です。
半世紀ほど前、犬の放し飼いが普通だったころには、犬たちは当然のようにリードなしで散歩に行っていました。トレーニングなどする人はほとんどいなかったにもかかわらず、犬たちはちゃんと同居人といっしょに散歩をしていました。同居人が出かければ、その後を追って付いてきます。
こうした後追い行動をするのは普通のことですが、寝ていても同居人の動きにつられて起きてくるとか、いつでも、どこにでも付いてくるというのは、通常の行動とはいえません。常に同居人の後を付いてまわっていると、ゆっくり寝ていることができずに睡眠不足になりますし、疲れてしまいます。
過度の後追い行動は、犬がひとりでいられないということを意味します。なぜひとりでいられないかというと、ひとりでいると不安で、いても立ってもいられなくなるからです。不安のあまり、同居人から離れられなくなっているのです。後追い行動は、その分離ストレス行動のひとつなのです。
分離ストレス行動の原因は不安にあります。人間でも、なにか怖い思いをした後には、不安になることがあります。怖いテレビ番組や映画などを見た後に、子どもがひとりでトイレに行けなくなったり、親といっしょに寝てもらいたがったりするなどということがよくありますが、犬も同じように、怖いことを体験することで不安になり、人のそばにいようとするということがあります。これは一時的なものなので、しばらくして落ち着いたらやらなくなるでしょう。
新しく迎えたばかりの犬は、環境の変化によって不安になりますから、後追い行動をすることがよくあります。とくにペットショップやブリーダーから迎えた子犬は、本来なら親兄弟といっしょにいる時期に人間の手によって引き離されて、まったく知らない場所に連れて来られる訳ですから、恐怖や不安から後追いをするのは当然のことです。
そんなときに、ケージなどに閉じ込めたりすると、不安がよりいっそう大きくなり、後追い行動が悪化してしまいますので気をつけましょう。
一時的な恐怖や環境の変化などがなくても、常に不安を抱えている犬には、日常的な後追い行動が見られます。後追い行動にお悩みの方のほとんどが、このケースだと思われます。冒頭で述べたような、トイレやお風呂の中まで付いてくる場合は、なんらかの不安を抱えていると考えたほうがいいでしょう。
不安の原因といっても、とくに心当たりはないという方がほとんどだと思います。ですが、同居人が「これぐらい大丈夫」と思うようなことでも、犬にとってはとても怖かったり、嫌だったりすることがたくさんあります。以下に、不安の原因となることをピックアップしてみましょう。
ケージに入れたり、叱ったり、天罰を使ったり、命令に従わせたりというようなことは、一般的なドッグトレーニングでよく行われています。ところがそれがかえって犬にストレスをかけ、不安を悪化させてしまうのです。ケージに入れたり、叱ったり、命令に従わせたりしなくても、犬は人間のライフスタイルに適応して問題なく暮らすことができます。
犬に過度の後追い行動が見られたら、不安の原因を取り除きましょう。
犬の名前を何度も呼んだり、「いい子」を連発したりする代わりに、犬の言葉(ボディランゲージ)であるカーミングシグナルで会話します。犬と目が合ったときに、パチパチとまばたきしてから目をそらしてみてください。これは、「あなたに好意を持っています」というシグナルです。目が合うたびにかならずこのシグナルを出していると、犬はとても安心します。
反対に、犬の目をじっと見たり、犬のほうにまっすぐ向かって歩いたり、手を大きく振り上げたり、頭の上から手を伸ばしたりするのは、犬を不安にさせてしまいますので、うっかりやらないように気をつけましょう。かまいすぎはよくありませんが、長時間留守番させるのもまたよくありません。可能な限り留守番は少なくして、家で静かに過ごすようにしましょう。
犬が後追いをしてきたときに、付いて来られないようにしてしまうと、犬はさらに不安になります。トイレやお風呂に入ってこようとしたときには、閉め出したりせずにドアを少し開けて中が見えるようにするか、あるいは中に入れてあげてしまってもいいでしょう。同居人の姿が見えれば、犬は安心します。夜もいっしょに寝てあげましょう。夜一人ぼっちで寝るのは、社会性が高い犬にとってはつらいものです。
犬の自立を促すためにひとりでいる時間を作ろうと考える方がいるかもしれませんが、不安を抱えている状態では逆効果になります。付いてくる犬をわざと無視するというのも同様です。犬の不安な気持ちを受け止めて、寄り添ってあげることが犬を安心させ、いい結果を生みます。
イライラしたり、腹を立てたりするのではなく、犬のネガティブな感情を受け入れてあげましょう。人間自身も、つまらないことでつらくなったり不安になったりするものです。そんなときに誰かに話を聞いてもらうと、気持ちが軽くなるものです。犬の言葉に相槌を打つような気持ちでそばにいてあげましょう。
強い不安を感じていると思われるときには、少しの間、抱っこするとか、一緒に横になるなどして、リラックスした時間を過ごすといいです。犬をよく観察して、どのようにしたらより安心するか試行錯誤してみてください。同居人が犬の気持ちを知ろうとすること自体もまた犬を安心させます。
後追い行動をなくすことのみに気を取られると、「ハウス」と命令して一時的にクレートに入れたり、叱り付けて犬が動かないようにしたりして、後追いが直ったと勘違いするようなことになりかねません。不安がなくならないかぎりは、直ったことにはならないということを覚えておきましょう。
犬が安心して快適に暮らせるようにするということが同居人のつとめです。同居人にとって困った行動をなくすという考え方から、犬自身が困っている行動をいっしょに解決するという考え方に変えてみると、犬のQOLはずっと向上すると思います。
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