「おすわり」「ふせ」「待て」「お手」・・これらの行動をさせるための命令を「コマンド」といいます。犬を迎えたら、しつけの第一歩としてまずはコマンドに従えるように教えないと!と思う方が多いかもしれません。
でも、実はどれも犬に教える必要はないのです。
巷にあふれる情報では、これらはできるようになって当たり前のように書いてありますし、犬のしつけ本では最初の方のページに書かれているので、ちょっと信じられないかもしれません。
ここでは、コマンドはいらない理由と、代わりにできることをお伝えしたいと思います。
まずは、どうして「おすわり」などのコマンドを教えないといけないと言われているのかをみましょう。
このような時に、犬は興奮状態になっています。それを、コマンドを使っておすわりや待てをさせれば、行動を制止できるため、他人や他犬に怪我をさせるのを防いだり、自分の家の犬自身の安全も守ったりすることができるといいます。
せっかくドッグカフェや犬連れOKのホテルに泊まりに行ったのに、犬がソワソワと落ち着かず食事どころではなくゆっくりしていられない・・。犬のご飯の時間になると、飛びついてきたり何度も吠えて要求したりしてうるさい・・。シャンプーや爪切りなどのお手入れをしたいのに嫌がって静かにしていられない・・。
そんな時にコマンドをつかうことで、静かに待たせることができるといいます。
犬は人間より上の立場だと思ってしまうと、様々な問題行動を引き起こすため、人間がリーダーであり、人間のルールに従って生活することを学ばせる必要があるといいます。
単に、犬がコマンドに従って行動するのが可愛い!面白い!という気持ちで、芸として教える人もいるようです。
「芸」はまたちょっと違いますが、それ以外は、犬が人間と暮らす上で必要であり、犬のために教えてあげなければならないと思われているようです。
しかし、コマンドを教える必要がないどころか、教えることによる弊害の方がよほど大きいと感じています。その弊害は次の3つです。
まず一つ目は、犬はコマンドによって大きなストレスを感じることになります。コマンドで指示されている時の犬の動画などを見てみると、舌をペロペロしたり目を細めたり顔を背けたりなど、ストレスシグナルをたくさんだしています。
犬は人間に行動を管理されたり、指示命令されたりすることで、多くのストレスを感じます。それは、おやつを使ったり体を触られたり力を加えられたりして、コマンドを教えられている時から始まっています。
人間と同じように、犬にとってもストレスは大きな問題です。ストレスの蓄積によって、噛みつきや家具の破壊などの問題行動をするようになったり、心や身体をこわしてしまったりします。
「芸」として教えている場合でも、犬も面白がって喜んでやっていると思われてしまうことがありますが、犬がおやつ欲しさにやっているだけだったり、やらなければ同居人が怒ったり悲しんだりするので必死にやっていたりします。よく考えてみれば、喜んでやっているのは人間の方だけだと気づくのではないでしょうか。
おやつでコマンドを教えたり、その後もコマンドのたびにおやつを出したりしていると、犬はおやつのことで頭がいっぱいになります。どうしたらおやつをもらえるか、いつもらえるか、考えるのはそればかりです。
そして、おやつがもらえそうな時や人間の食べ物を出した時などに大興奮するようになります。
おやつのことで頭がいっぱいなので、他への注意が散漫になったり、自分で考える力が身につかなくなったりします。
コマンドによって犬を賢くさせているかのようですが、逆に犬の成長を大きく阻害していることになるのです。
コマンド・おやつで、犬が指示に従い問題行動をやめますが、おやつが終わるとまた興奮対象にガウガウと突進するなどと、問題行動に戻ることがよくあります。そして人間は困ってまたおやつを出す・・これでは犬も人間もおやつ依存症になってしまいます。
犬は、例え危険なことが迫っていたり不安なことがあったりしても、常に同居人のコマンドでコントロールされているため、自分で考えて行動することができなくなってしまいます。
コマンドでおすわりやふせをさせられている時の犬の様子をよく観察してみてください。ソワソワしていて落ち着きのない状態ではありませんか?
おすわりやふせなどをさせていることで、犬は気持ちを落ち着かせたり興奮を鎮めたりすることができるといわれていますが、よく観察したらそうではないことが分かりますし、他の犬への苦手意識や過剰反応がなくなったわけでもありません。根本的な解決にはなっていませんし、犬が自分で考えて行動するということもできなくなってしまいます。
コマンドを使うのは、ずっと犬のことを管理・コントロールし続けなければならないということです。これでは人間にとっても大変ではないでしょうか。
「コマンドを使うことで犬に与えてしまう影響は理解できたけど、コマンドを使わないなら、犬の問題行動はどうやってやめさせればいいんですか?」という質問を頂くことがあります。
コマンドを教えない代わりに、次のようなことを心掛けてみませんか?
人間がコマンドを使うような状態のときは、たいてい、犬は困っていたり怖がっていたり、ただ単に要求があったりするときです。
その犬の気持ちに、目を向けて配慮してみましょう。
苦手なことを避けたり、困っていることを手助けしたりすることで、コマンドを使う必要はないのです。
例えば、他の犬や人間に過剰に反応してしまうようなら、なるべく興奮対象に合わない時間や場所を選んで散歩をします。万が一、出会ってしまって興奮したら、リードを固定して飛びつくのを防止したり、逆に怖がっていたら犬が自由に逃げられるようにリードを緩めておいてあげたりします。
ドッグカフェなどは、犬が人間と行動を共にするのを好み、一緒に座ってのんびり寛いでいられるような状態ならたまにはいいかもしれません。しかし、ソワソワして落ち着いていられないようなら、行くこと自体をやめてみませんか?
ご飯を食べる前に、犬を待たせるメリットはありません。自分が同じことをされたらと想像すると分かりやすいですが、犬はイライラしてストレスが溜まるだけなので、準備ができたらすぐにあげましょう。
ストレス行動や過度な興奮は、ストレスになるような原因、興奮させるような原因がなくなれば、やらなくなるのです。
人や犬、車までにも突進する、石などの食べ物ではないものを食べる、些細なことで吠えまくる、壁や家具を破壊するなどの行動は、一般的に問題行動と言われていて、矯正すべきことと考えられていますが、ストレス行動なのです。
例えコマンドを使って一時的にやめさせることができたとしても、それはその場しのぎに過ぎず、むしろ犬をコントロールするようなことを続けることで、ストレス行動は悪化していくことになります。
何が犬にとってストレスになっているかを見極め、それを排除し、犬が落ち着いて過ごせるような環境づくりをすることが大切です。
このようにして犬のストレスが減ってくるとストレス行動がなくなっていきます。そして犬が自分で適切な判断をして行動できるようになっていることに気付くでしょう。自ずと人間側も困ることがなくなり、お互い快適に過ごせるようになります。
私たちがコマンドを使う背景には、「何でそんなことするの?」という、犬の行動が理解できないという気持ちがあると思います。
犬は吠えるものですし、興奮したら噛みついたり飛びついたりします。散歩中に落ちている美味しそうなものは食べたがります。これは犬にとってはごく普通の行動です。
それを無視して、人間の価値観で「やめてほしい」「やるべきではない」と考えてしまうため、コマンドでコントロールしようとするのです。
犬と暮らしたくて迎えるのは人間の方なのですから、犬にはどんな習性があるのかを学び、犬に対する見方を変えていく必要もあるのではないかと思います。
犬の習性については、犬のことを知ろうのカテゴリーを参考にしてみてください!
犬は、人間が思っているような頭の悪い動物ではありません。管理しなければならない相手ではありません。
むしろ、とても賢くて、人間の気持ちや意思を読みとろうとしたり、人間が悲しい想いをしたらそっと寄り添ってくれたり、争いごとを仲裁しようとしたりと、とても優しい心をもっています。
そんな犬に対して、一方的に命令したり、人間都合を押しつけたりするのは、アニマルライツに反する行動です。私たちは、つい人間の方が上だと勘違いしてしまいますが、人間と犬は平等な関係です。犬の気持ちや言いたいことに耳を傾けて、行動しましょう。
そうやって犬の気持ちを尊重し、対等にコミュニケーションをとることで、犬の気持ちもだんだん安定していきますし、犬との暮らしが幸せで満ちたものになりますよ。
コマンドを使うことは、一見「犬のために必要」のように思えるかもしれませんが、このように多くの弊害を抱えています。
是非、犬の行動をコントロールするためのコマンドを使うのではなく、犬自身が自分で判断して行動できる環境を整え、互いに快適に過ごせるように努めてみましょう。
最新情報やノウハウ等、ブログではお伝えできないお話を毎週お届けしています。
無料ですのでぜひご購読ください。