犬の不妊去勢手術について、ネット上には様々な情報があふれていますし、すべきかどうか悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私たちは、不妊去勢手術をすることを強くおすすめしていますが、ここでは、不妊去勢手術に関するメリットデメリットを踏まえてその理由をお伝えしたいと思います。
一つ目は、犬の生殖器系の疾患を予防できるという点です。
多くの犬が、高齢になって肛門周囲腺腫や子宮蓄膿症、乳腺腫瘍などで手術を受けているのが現状です。これらは、若いうちに不妊去勢手術をしていれば予防することができるのです。
また、高齢での手術はリスクがあるだけでなく、すでにガン化しており手遅れだった・・ということもあります。
オス | メス |
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睾丸腫瘍 セルトリ細胞種 肛門周囲腺腫 前立腺肥大 精巣上体腫瘍 伝染性生殖器腫瘍 |
子宮蓄膿症 肉芽種性子宮内膜疾患 子宮癌 卵巣癌 乳腺腫瘍 膣脱症 伝染性生殖器腫瘍 |
これらの病気は不妊去勢手術を行っていれば防げるものです。病気になってから後悔したり、病気にかかることをずっと心配して暮らしたりするよりも、事前に防ぐほうが犬も同居人も心身ともに安心して暮らしていけるのではないでしょうか。
メス犬は、個体差がありますが、年に1,2回、発情期(ヒート)が起こります。最初の発情は生後6か月~12ヶ月頃です。オス犬には、特定の発情期があるわけではなく、発情期中のメス犬に反応して発情してしまいます。なんと2キロ先まで発情期のメス犬のにおいを感じとれるんだそうです。
未去勢のオス犬は、そのたびに交尾ができないストレスを抱えることになりますし、メス犬や去勢オスのお尻のにおいをしつこく嗅いで嫌がられたり、未不妊メスをめぐって喧嘩をしたりします。また、中には未去勢オスに対して攻撃的になるオス犬もいます。
他犬と喧嘩する機会が多くなれば、それ自体がストレスになりますし、よくない関連付けをして、他犬に過剰反応するようになるのです。
メス犬は、こうして発情期のたびにストレスがかかってしまいますし、発情期後に妊娠をしていなければ偽妊娠を起こしてしまうケースもあり、これがまたストレスとなります。
偽妊娠とは?妊娠していないにも関わらず、乳腺がはれたり母乳がでたりします。また、食欲不振におちいったり、ぬいぐるみなどを子どもを守るようにしてはなさなくなったり、イライラしやすくなったりします。これらは、排卵後の黄体ホルモンの影響といわれています。
このように、オス・メスともにストレスがかかり、ストレスが蓄積されれば、他の問題を引き起こしてしまうことにつながってしまう可能性も大きいのです。これらは、しつけで解決させる問題ではありません。
性成熟を迎える前に、不妊去勢手術を行うことによって、これらのストレスを防ぐことができるのです。
これは日本ではあまり広く知られていないようですが、不妊去勢手術をしていないと、治療に使用できない薬があるそうです。
抗がん剤、インシュリン、ステロイド、抗アレルギー薬などで、治療効果が低い病気もあるのだそうです。
不妊去勢手術に否定的な人の意見には、「自然に反する」というものがあります。でも、そもそも犬は、人間が手を加えて作り出した動物で、野生動物とは異なります。
犬を自然に任せていたら、その数はどんどん増えてしまうでしょう。実際そうなっていて、不幸な運命をたどる犬が後を絶ちません。「殺処分ゼロ」などと掲げる自治体もでてきたため、殺処分数は徐々に減っていってはいます。しかし、譲渡先が見つからず、保護団体の施設などでQOLを保たれず、ただ生きているだけの犬が多くいるのが現状です。
犬の繁殖には、最初から人間がかかわっているのですから、責任を持って繁殖制限して個体数を管理すべきだと思います。
発情期中は散歩をさせないから関係ないなどという意見もあるかもしれませんが、それによってまたストレスを抱えますし、発情期中のメス犬に反応して脱走するオス犬もいます。
発情以外でも、雷など他の要因によって家から飛び出してしまうケースもありますし、災害などがあると、同居人と離れ離れになって繁殖してしまう可能性もあります。
相当数の犬が商品として生産されて廃棄され、あるいは捨てられて繁殖して殺されているという現状を考えると、性成熟前の不妊去勢手術は非常に重要ではないでしょうか。
不妊去勢手術をすることによるデメリットとしてあげられるのは、次の2点です。
健康的な犬であっても、3,000匹~5,000匹に1匹の割合で、全身麻酔による事故は起こっています。
しかし、通常、事前の血液検査や心電図検査、麻酔の種類の選択をしっかりと行います。また、手術中は、犬の状態を常にモニタリングをして、異常がないかどうか、細心の注意をはらいます。そうすることで、麻酔によるリスクを下げることができるのです。
手術をすることによって、副作用や合併症を引き起こす可能性があります。
手術により基礎代謝率が下がることによって、必要なカロリーが低下します。それによって太りやすくなる犬もいますが、食事の量を調整することで、十分に肥満を防ぐことが可能です。
手術に使用される絹糸を、体が異物と認識しアレルギー反応が起こり、肉芽腫となってしまう合併症です。特にミニチュアダックスフントに多いといわれています。
最近では、縫合糸反応性肉芽腫の発生を抑える無結紮手術を行っている病院が増えていますので、事前に確認をしましょう。
他に、尿失禁(特にメス)や骨肉腫(特に大型犬)などの病気や副作用を発症することがあるといわれていますが、因果関係が証明されていないものもあり、確率論で考えても、不妊去勢手術をしないことで起こる病気のリスクの方が圧倒的に高いです。
以上、不妊去勢手術におけるメリットデメリットをとりあげました。
不妊去勢手術は、麻酔上および外科上のリスクがあるのは事実ですが、全体的な合併症の発生率は非常に低いです。
「健康なのにわざわざ手術するなんて」「結果病気になったら可愛そう」などと、同居人が不安な気持ちを抱いてしまうのも分かります。不安点や疑問点は、事前に獣医さんによく相談して納得することや、検査やモニタリングをしっかり行ってくださる信頼のおける方にお願いすることが重要です。
病気のリスクはもちろんのこと、不妊去勢手術をしないことで犬が抱えるストレスは見逃せないもので、犬の一生のQOLに大きく関わってきます。不妊去勢手術を行うことが犬自身のためになることだといえるのではないでしょうか。
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