犬が室内のあちこちで粗相をするというのは困りものです。できれば室内は汚さないで欲しいと思うことでしょう。
なぜ犬はトイレ以外の場所で排泄、すなわち粗相をしてしまうのでしょうか。ほとんどの方は、「犬がトイレの場所を覚えないからだ」と考えていると思います。ですが、実際には、そうでないことのほうが多いのです。粗相の原因には以下のようなものがあります。
犬がトイレ以外の場所で粗相をしてしまうときには、以下のような原因が考えられます。
まずは病気がないかどうかをチェックしましょう。もっとも一般的なのは「下部尿路疾患」です。これは膀胱炎、尿道炎や結石症などの総称で、頻尿や血尿、排尿困難などの症状があります。この病気になると排泄のコントロールができなくなって、トイレ以外の場所で排泄することがあります。
排泄の格好をするのに尿が出ない、もしくは少量しか出ない、よく性器を舐めるなどの症状が見られたら、下部尿路疾患を疑ってみましょう。
そのほか、水頭症や後頭骨・頚椎形成不全などの影響で、頻繁に排泄したり、粗相したりすることがあります。これらの疾患は小型犬や超小型犬には非常によく見られますが、簡単に治るものではないので、粗相も受け入れてあげることが必要になります。
それ以外にも、神経系の疾患などで粗相していることもありますので、動物病院で相談してみるといいでしょう。
もっとも多いのがストレスによるものです。わたしたちも、大事な試験やプレゼン、発表会の前などには、緊張してトイレに行きたくなるということがあります。これは緊張に伴う精神的なストレスが原因です。
よく室内を走り回っている犬は、頻繁に排泄しますが、これは興奮によるストレスと、運動による刺激が原因です。慢性的なストレス状態では頻尿が起こりやすくなりますし、さらに犬特有のマーキング(少量の尿をあちこちにかける)を頻繁にするようになります。ひどい場合は、数秒に1度という頻度でマーキングすることもあります。
とくにケージやクレートなどに閉じ込めていた犬を、ケージから開放したときに、このような頻繁なマーキングがよく見られます。
これは「犬がトイレの場所を覚えていない」のではなく、また一般的に言われているように、「縄張り意識からマーキング」しているのでもありません。自分では出ることができない狭い場所に閉じ込められているストレスが原因の、ストレス反応なのです。
ですから、叱っても直りませんし、トイレの場所を教えても解決しません。それは、わたしたちが緊張したときに、トイレに行きたくなるのを抑えることができないのと同じ理由によるものです。
長時間留守にして帰宅したときに、犬が靴の上に粗相していたなどということがあります。「腹いせ」にわざとやったのだと思いがちですが、犬は「腹いせ」などしません。叱ったあとに粗相した場合も、同じことが言われますが、どちらもストレスによるものです。
意外と見落としがちなのが、物理的にトイレに行けない、あるいは心理的に行けないために、粗相をしていることがあるということです。
たとえば、外で排泄するのが好きな犬が、室内に閉じ込められてしまったら、我慢するか粗相するかしか選択肢がなくなります。我慢できなくなれば粗相するしかないでしょう。夜寝る前に排泄させれば、通常の成犬は朝まで我慢できますから、そうしてあげましょう。
心理的に行けないというのは、室内トイレを使っていて、トイレシートが汚れているのが嫌で、シートの外にするというようなケースです。このような場合は、常にトイレを清潔に保つようにしましょう。トイレシートの素材が嫌いということもあるので、お好みのものを見つけてあげます。使い捨てのものだけでなく、洗える布シーツもあります。
また、一度粗相を叱られてしまうと、「排泄すると叱られる」と学習してしまったがために、トイレに行けなくなる犬もいます。そうなると、人から見えない物陰に隠れて排泄するようになりますし、叱られるストレスで頻尿になるためさらに叱られて、悪循環から抜け出せなくなります。
叱るのはきっぱりやめて、犬が安心かつ安全に排泄できるように、そっとしておいてあげましょう。このような場合は外で排泄する習慣にすると、失敗なくできるので犬も安心です。
それでは、粗相をするようになってしまった犬には、どのように接すればいいでしょうか。何が原因であっても、排泄の失敗には多かれ少なかれストレスがかかわっているので、まずはストレスを減らすことが大切です。
ストレスの原因には次のようなものがあります。
これらを可能な限り改善してみましょう。根本原因がなくなれば、問題は解決します。根本原因をそのままにしておいて、いくら対症療法を行っても、たいした効果は得られません。このことをしっかり認識することが大切です。
とくに粗相は、ストレスが原因であることが圧倒的に多いので、ストレスマネジメントが決定的に重要です。その上で、トイレでない場所で排泄するという習慣をなくすようにしていきます。
動物は自分の巣穴を汚さないという習性があります。犬も本来は、自分の生活スペースを汚さないものです。ところが、子犬のころに、ペットショップで長い間狭いショーケースの中に入れられていて、その場で排泄することを余儀なくされた犬は、生活スペースをきれいに保つことにあまり関心を示さなくなります。
また、高ストレス状態が続いて粗相し続けた犬も、同じような傾向があります。粗相の習慣がついた犬には、排泄は屋外でするというわかりやすいルールから始めたほうが、うまくリセットできます。
ヨーロッパでは犬は基本的に室内で飼育するのが一般的ですが、排泄はかならず外でさせます。室内トイレもトイレシーツも売っていません。代わりに、6時間に1度排泄のために外に出さなければいけないという法律がある国さえあります。
そのおかげで、トイレの粗相はほとんど問題になりません。トイレのタイミングで外に出せば、家の中で粗相をせずにすむのです。
外での排泄を習慣にするには、決まったスケジュールで犬を外に連れ出すだけで十分です。それによって犬は巣を汚さない習性を取り戻すことができます。
そのためには、次のようなスケジュールで、犬をトイレに連れ出すといいでしょう。
排泄のための外出は、短時間でかまいません。ただし、排泄の時間は犬の状態によります。ストレスレベルが高いと興奮しやすいので、短時間では帰らないことがありますが、ストレスレベルが下がってくれば、文字通り、排泄をするだけで家に帰ってくれます。子犬の場合は、上記以外に、食後と寝て起きた後にも毎回トイレに連れ出します。
成犬も子犬も、間に合わなかったときのために、室内にもトイレを設置しておきます。ですが、室内トイレはあくまでも予備であり、外で排泄する習慣にしたほうが、早く巣を汚さない習性を思い出してもらえます。
外での排泄が習慣になると、留守番のときに困るという人がいるかもしれません。ですが、排泄を我慢できないほどの時間(目安は6時間)、留守にしないということは、犬のQOL(生活の質)を保障し、ストレスを増やさないために、とても重要なことです。
もし、犬を6時間以上留守番させなければならない状態で犬と暮らし始めてしまった場合には、ペットシッターを利用することをおすすめします。プロでなくても、身内や友達、近所の方などでも十分です。
また、外で排泄する習慣をつけると、病気になったときに困るという人がいます。ですが、自力で歩けないということは、イコール寝たきりということです。寝たきりになればオムツを使用するか、ペットシーツなどを敷きます。
もし高齢になったとしても、排泄のときにはきちんとトイレに行こうとするものです。それは外でも室内でも同じです。トイレに行けない状態というのは寝たきりということです。寝たきりになったら防水シーツ(ペットシーツなど)を使用します。これは人間とまったく同じです。
また、雨や嵐の日に困るという人もいますが、そういう日には外でトイレだけすばやく済ませればOKです。室内にもトイレがあれば、犬も雨の日にはそれを使うかもしれません。
外トイレにすると、気分転換にもなるので、犬はよりいっそう落ち着きます。室内も清潔に保てるので、一石二鳥です。ぜひとも外トイレの習慣をはじめてみましょう。
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